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東京高等裁判所 昭和47年(行ケ)62号 判決

事実及び理由

一  前掲請求原因のうち、実用新案につき出願から審決の成立にいたる特許庁における手続、その考案の要旨及び審決の理由の要点に関する事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、右審決の取消事由の有無について審究する。

(一)  前掲本願考案の要旨によると、本願考案は、複数の電極素子群を配列した基板とこれに対向する複数の共通電極とを一つの管内に封入する表示用放電管において、(1)複数の共通電極より各々導線を引出し、(2)複数の電極素子群のそれぞれ対応する電極素子を互いに電気的に接続し、該接続点より導線をそれぞれ引出すことを構成要件の一部としているものであるところ、成立に争いのない甲第二号証(本願の実用新案公報)には、「各電極素子群1E、2E、3E及び4Eの電極素子E1は一つの導線例えばL1に接続され、同様に各電極素子群の対応する電極素子E2、E3……E8はそれぞれ導線L2、L3……L8に接続され、各導線L1、L2……L8は基板1の一端に設けられた端子T1、T2……T8にそれぞれ接続される。」、「これ等の共通電極1P、2P、3P及び4Pはそれぞれ導線l1、l2、l3及びl4を通じて基板3の一端に設けられた端子t1、t2、t3及びt4に連絡される。」、「陰極板2及び陽極板4上の端子T1、T2……T8及びt1、t2、t3及びt4はそれぞれガラス管6に取付けられた導出A1、A2……A8及び、a1、a2、a3、a4に接続されて外部に導出される。」との記載があるから、この点を併せて勘案すれば、本願考案の右(1)、(2)の構成要件中、「導線を引出す」とは、導線を放電管の外に引出すことをいい、また、同(2)の「互いに電気的に接続する」とは、各電極素子群のそれぞれ対応する電極素子が同時に同一電位を与えられること、すなわち、相共に電気的に接続されることを意味するものと解するのが相当である。

そして、成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)によれば、第一引用例には、この点に関し電場発光装置の記載があるが、該装置は、(1)複数の電極素子群24、24′とそれぞれ対向する複数の導電領域12、12′を細い導体部分により一個の共通の電極14に接続し、右電極14から一本の導線を装置の外に引出し、(2)複数の電極素子群24、24′のそれぞれ対応する電極素子に導線26を接続し、導体群43、43′及びこれに対し選択的に光によつて導電性とされる光導電層38を介して、各導線26を透明線状電極36に接続し(すなわち、スイツチ104、106等によつて矩形電極18を選択的に電源に接続すれば、それに対向する電場発光層22の部分は局部的に発光し、その光は電極フイルム30の透孔32を通り光導電層38に達し、これを局部的に導電性とし、その上下の導体群43、43′と透明線状電極36とを接続状態とするものである。かように光の照射によつて接続状態となる構成部分を光スイツチという。)、右電極36の各端部から装置の外に導線を引出すことによつて構成されているものであつて、右(1)のように共通電極から導線を装置の外に引出す態様及び(2)のように各電極素子群のそれぞれ対応する電極素子を電気的に接続する態様において、本願考案の構成と相違することが認められる。

(二)  加えて、前出甲第三号証によれば、第一引用例の装置においては、一個の電極素子群24の各電極素子の導線26のすべてを透明線状電極36に接続することによつて、右電極素子群24を発光させ、次いで右電極素子群24を電源に接続させているスイツチ104をオフとしたうえ(そのときも、導線26が表示保持のため16、28、40、44からなるメモリースイツチに接続しているため、右電極素子群24の発光は継続している。)、右と同様の方法によつて他の電極素子群24′を発光させて、複数桁の文字、数字等を同時に表示するものであるため、その構成上、光スイツチを不可欠とし、その数は、電極素子群の数をN、各電極素子群の電極素子の数をMとすれば、M×N個の多きに達することが認められるのに対し、前出甲第二号証によれば、本願考案においては、前に認定のような構成により、一個の電極素子群の発光及びその停止を行い、次いで、直ちに他の電極素子群の発光及びその停止を行う操作を迅速に繰返えしいわゆる時分割的表示をして複数桁の文字、数字等を同時に表示することができるものであることが認められるから、同じく複数桁の文字、数字等の同時表示という目的達成のためとはいえ、前記(2)のような構成上の差異により、本願考案は、第一引用例の装置に比し、少なくとも各電極素子から引出された光スイツチの構成部分たる多数の導線を必要としない点において、装置全体の構造を簡単かつ安価なものとすることができることが明らかである。

被告は、第一引用例の光スイツチをもつて装置に内蔵され、機能的にも共通電極又は各電極素子のいずれのためのものともいえないから、スイツチ数の比較の対象に入れるのは適当ではない旨を主張するが、第一引用例の光スイツチは複数桁の文字、数字等を表示するため、構成上、不可欠のものである以上、被告の主張は理由がない。

(三)  そうだとすれば、本願考案は、その構成において、第一引用例の装置と相違し、これがため、同装置にみられない顕著な効果を奏するから、同装置を単に放電管によつて構成することにより極めて容易に考案することができるものということはできず、したがつて、その登録を拒絶すべきものと判断したのは誤りであり、違法たるを免れないから、右審決は取消さるべきである。

三  よつて、本件審決に右取消事由が存在するとして、その取消を求める原告の本訴請求を理由があるものとして、認容することとする。

〔編註その一〕本件における請求原因は左のとおりである。

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

(特許庁における手続の経緯)

一  原告は、名称を「表示用放電管」とする考案につき、昭和四十年二月二十四日実用新案登録出願をし(実願昭四〇―一四三九九号)、昭和四十三年四月五日、右出願を、実用新案法第九条により準用される特許法第四十四条の規定により、分割して実用新案登録出願をし、これにつき、同年十月二十五日、出願公告(昭和四三年実公第二五四九六号)をされたが、同年十二月十日早川電機工業株式会社から、ついで、同月二十五日松下電器産業株式会社からそれぞれ登録異議の申立があり、昭和四十四年十一月二十五日、拒絶査定を受けたので、同年十二月二十五日、これに対する審判を請求したところ、特許庁は昭和四五年審判第一四一号事件として審理し、昭和四十七年三月十七日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との主文第一項掲記の審決をし、その謄本は、同年四月二十六日、原告に送達された。

(考案の要旨)

二  本願考案の要旨は、次のとおりである。

複数の文字、数字等を構成する複数の電極素子より成る複数の電極素子群を観察方向より見て互いに重なり合うことなしに配列した基板と、上記複数の電極素子群とそれぞれ対向する複数の共通電極とを一つの管内に封入し、上記複数の共通電極より各々導線を引出し、上記複数の電極素子群のそれぞれ対応する電極素子を互いに電気的に接続し、該接続点より導線をそれぞれ引出して成る表示用放電管の構造(別紙第一図面参照。なお、以下における構造に関する符号は、右図面記載の符号に対応する。)。

(審決の理由の要点)

三  右審決は、その理由として、次のように解される判断を示した。

本願考案の要旨は、前項のとおりの表示用放電管の構造であるが、米国特許第二、九五八、〇〇九号明細書(以下、「第一引用例」という。別紙第二図面参照。なお、以下における構造に関する符号は右図面記載の符号に対応する。)には、複数の文字、数字等を構成する複数の電極素子より成る複数の電極素子群を観察方向より見て互いに重なり合うことなしに配列した基板と、上記複数の電極素子群とそれぞれ対向する複数の共通電極とを一つの装置内に封入し、上記複数の共通電極より各導線を引出し、上記複数の電極素子群のそれぞれ対応する電極素子を互いに電気的に接続し、該接続点より導線をそれぞれ引出して成る電場発光表示装置が記載されているので、両者を対比すると、本願考案は、第一引用例のものが電場発光の構成であるのに対し、放電管の構成である点において差異がある。しかし、米国特許第二、六一八、六九七号明細書(以下、「第二引用例」という。)には、複数の文字、数字等を構成する複数の電極素子より成る電極素子群を観察方向より見て互いに重なり合うことなしに配列し、これらを共通電極(陽極)とともに同一管内に封入して成る表示用放電管が記載されていて、その放電管は、本願考案同様に、単一の文字、数字等を複数の電極素子を用いて表示する構成である。また、電場発光が放電発光に比べて発光効率が悪く、発光のため高電圧を要するものであることは当業者の間において周知である。したがつて、本願考案は、第一引用例に記載された電場発光表示装置を、単に放電管によつて構成することにより極めて容易に考案することができるものと認められるから、実用新案法第三条第二項の規定によつて登録の拒絶を免れないものである。

(審決の取消事由)

四  しかし、右審決は、下記のように第一引用例の装置の構成を誤認した結果、これとの対比から、本願考案を各引用例に基づき極めて容易に考案することができるものとし、その登録が拒絶さるべきであるとの誤つた判断をした点において違法であつて、取消されるべきものである。

(一)  なるほど、右審決が認定した本願考案と第一引用例のものとの構成上の相違点は第二引用例のもの及び右審決認定の周知事項から容易に考案しうるものであるが、本願考案は、そのほか、後記のように新規の要件を備える点においても第一引用例のものと相違し、右審決が右引用例のものもこれと同一の要件を備えていると認定したの誤りである。

すなわち、本願考案は、(1)複数の共通電極より各々導線を引出すこと及び(2)複数の電極素子群のそれぞれ対応する電極素子を互いに電気的に接続し、該接続点より導線をそれぞれ引出すことを構成要件の一部とするものであり、本願明細書及び図面から明らかなように、(1)共通電極1Pないし4Pはそれぞれ独立し、右共通電極から別々に導線l1ないしl4が管外に導出され、また(2)複数の電極素子群1Eないし4Eのそれぞれ対応する電極素子E1ないしE8は互いに電気的に接続され、その接続点から導線L1ないしL8がそれぞれ管外に導出されているが、これに対し、第一引用例の装置においては、同引用例の第一図から明らかなように、(1)12及び12′として示される導電領域は、装置内において、すべて電極14に結合され、これを通じて共通に装置外の電源に接続されているから、装置外に引出される導線は一本だけであつて、本願考案のように複数の共通電極から各別に導線を引出してはいず、また、(2)複数の電極素子群24及び24′の各電極素子より延長するそれぞれの導線26は、他のいかなる電極素子の導線26とも電気的に接続されていないため、本願考案のような電気的接続点はないから、本願考案の前記(1)及び(2)の構成要件を備えるものではない。

被告は、両者の各(1)の点につき、第一引用例のものにおいては、導電領域12及び12′がその導体部分により電極14に接続されているので、右導体部分が本願考案の導線に当たる、と主張する。しかし、本願考案の実用新案登録請求の範囲には、「上記複数の電極素子群とそれぞれ対向する複数の共通電極とを一つの管内に封入し」との文言に続き、「上記複数の共通電極より各導線を引出し」とあるのであるから、導線を引出すのは、管外に引出すことをいうものと解され、また、本願明細書が同一の実施例を示す図面のうち、第三図に関し、「これらの共通電極1p……4pはそれぞれ導線l1……l4を通じて基板3の一端に設けられた端子t1……t4に連結される」と説明し、また、第一図に関し、「また陰極板2及び陽極板4上の端子T1……T8及びt1……t4はそれぞれガラス管6に取付けられた導出線A1……A8及びa1……a4に接続されて外部に導出される」と説明していることからしても、複数の共通電極から引出された導線l1……l4はそれぞれ端子t1……t4に連結され、この端子はそれぞれ導線t1……t4によつて管の外部に導出されることが明らかであつて、本願考案においては、導線を管外に引出して各別に電位が与えられるのである。これに対し、第一引用例のものにおいて、各導電領域12、12′は細い導体部分により電極14に結合されているが、このような導体部分の構成は各導線を装置外に引出すものといわない。第一引用例のものにおいて装置外に引出される導線は一本だけであり、その引出し端子も、第一引用例の第一図に端子100として示されるように、単一であつて、これによつて各導電領域12、12′に共通の同一電位が加えられることが当然の前提となつているのである。本願考案において、もし、第一引用例の導体部分の構成のように共通電極を一本の導線に接続すると、複数の電極素子群のそれぞれ対応する電極素子も互いに接続しているため、複数の電極素子群のすべてが同一の表示をすることとなり、結局、考案の目的である多数桁表示を達成することができなくなるのであつて第一引用例の導体部分のような構成は本願考案の導線を引出すことに含まれないものというべく、被告のこの点の主張は誤りである。

次に、被告は、両者の各(2)の点につき、本願考案の「上記複数の電極素子群のそれぞれ対応する電極素子を互いに電気的に接続し、該接続点より導線をそれぞれ引出して成る」とは、第一引用例のものの電極素子を「かわるがわる」(「互いに」には、そのような意味もある。)接続する構成をも包含する旨を主張する。しかし、本願考案の要旨並びにその明細書中、実施例の説明及び図面から明らかなように、本願考案の電極素子の「接続」は、第一引用例のもののような外部回路のスイツチによる接続ではなく、表示用放電管自体の内部における接続であり、このような接続点から導線が管外に引出されているのであるから、その接続が「互いに」されているのを「かわるがわる」されていると解する余地はなく、このことは、本願考案においては、引出し線の減少をその目的の一つとしている点からみても明らかであつて、被告のこの点の主張も誤りである。

(二)  そして、本願考案は、右(一)のように第一引用例のものと相違する(1)、(2)の構成をとることにより、その明細書に明記するように、スイツチの数を減少し(引出し線の数の減少による。)、これによつて構造を簡単にし、安価な製品を得ることができるという、第一引用例のものにみられない格別の効果をもたらすのである。いま、電極素子群の数をN、各電極素子群における電極素子の数をMとすれば、本願考案においては、共通電極のためのスイツチの数はN個、各電極素子のためのスイツチの数はM個であるから、複数の文字、数字等を表示するには、M+N個のスイツチをもつて事足りる。これに対し、第一引用例のものにおいては、共通電極のためのスイツチこそ、一個にすぎないが、電極素子のためのスイツチとして、104、106、108及び112、114……124のスイツチの外に、M×N個のいわゆる光スイツチが必要である。すなわち、第一引用例の第一図から明らかなように、光導電層38の上面には電極配置43、下面には電極帯条36が設けられ、光が電極フイルム30の透孔32を通して、上方にある光導電層38に当たると、それまでオフ(遮断)状態にあつた電極配置43と電極帯条36との間がオン(接続)の状態となり、電極配置43及び電極帯条36は、その間の光導電層38への光の照射に応じてオン、オフするスイツチの作用を営むので、これを光スイツチというが、第一桁目を表示させるのに右光スイツチをオンにする必要があるのは勿論、第二桁目を表示させるには、第一桁目のための光スイツチをオフにして第二桁目のための光スイツチをオンにする必要がある(そうでないと、第一桁目と第二桁目とは同一の表示となつてしまう。もつとも、第一桁目の表示は、そのための光スイツチを切つても、別に存するメモリースイツチによりそのまま残るようにされている。)から、結局、光スイツチは、単一桁、複数桁のいずれの表示にも必要不可欠とされ、その数はM×N個である。本願考案においては、その構成上、さような光スイツチを必要としないから、少なくともそれだけスイツチの数を減少させ、これに伴いスイツチ群の間を連絡する引出し導線の数を著しく減少させ、ひいては表示用放電管の構造全体を簡単にすることができるのである。

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

第一図面

<省略>

第二図面

<省略>

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